2017年08月09日

笑う! 田舎暮らし 連載 「寒の餅」

(コープ自然派Table タブル2008年3月号)

 「ああ、しまった、今年も寒の餅がつけんかった」。気がつけばもう3月。いや、でもまだ今年は寒い。ひょっとして「寒」のふりしてへぎ餅(かきもち)もできるかも、などと淡い期待を持ってアキ姉に聞いてみた。「ほれがあかんのよ。寒について干した餅は、何年たってもカビがはえんし長持ちする。けんど、今から作ったへぎ餅は、知らん間にホリ(コクゾウムシ)に食われて無くなってしもてる」。あちゃ〜、遅かりし。

 「寒」の季節というものを、村に来てから強烈に意識するようになった。それまではお恥ずかしいことに、寒の入りのニュースを聞いては「あ、寒いんやなあ」くらいの文字どおりサムい感想を持ったくらいで、そもそも1年のうちのいつごろなのかまったく興味もなかった。それが実はこの「寒」というのは、1年のうちでも特にミラクルな季節なのだと、村のじいちゃんばあちゃんの暮らしの中から教わった。

 先の「寒の餅」、このあたりでは寒に入ると餅をついて薄く切り、干して乾かし保存する。「おへぎ」と呼ばれるこの餅は、焼いたり揚げたりして1年中重宝するおいしいおやつになる。毎年作ろう、作ろうと思いながら、ついつい忘れて3月に入ってハッと思い出す。干した餅がカビずにすばやく乾けばいいのなら、十分に気温が低ければちょっとくらい時期がずれても・・・と、のんきな素人感覚で思ったわけだったが、やはり考えが甘かった。なんで? なんで寒の餅はそんなに保存がきくんだろう? 「さあのう、水が冷たいけんかのう。やっぱり『寒』は『寒』だけある」とアキ姉。

 そう言えば、ヒロ姉も寒の季節の水をわざわざ瓶に入れてとっていた。「寒の水は腐らんけんのう。味もやっぱ違うような気ぃするぜぇ」と。毎日何気なく飲んでいる水も、その時期によって味や成分が違うのは思えば当たり前なのかもしれない。その中でも「寒の水」というのは、水温が低いということだけなのだろうか。

 水だけではない。畑でもその頃に蒔いて育った菜っぱ類は、春が来てもトウ立ちが遅く、虫にも食われにくいという。また、寒に一度田んぼを耕しておくと、稲の発育にもいいらしい。いったい、私が寒い寒いとコタツでまるまっているうちに、自然界のミクロな世界ではどんなミラクルがおきているのだろうか。興味は深まるばかりである。どなたかご存知でしたら教えていただきたいのですが・・・。

 かくして、今年も寒のへぎ餅が作れずに春を迎えてしまった。すっかりしょげていると、アキ姉が納屋から四角い缶をもってきて、「去年のじゃけんど、持っていけ」と中からへぎ餅を取り出して袋にどっさり詰めてくれた。「ありがとうございます。来年は忘れずに作ります!」。「はっはっは。去年もそう言うとらなんだかー?」。おっと、鋭い。来年こそはカレンダーに太字で「寒」としっかり書き込んでおかねば。節分を過ぎてまたオニに笑われないように。
posted by pon at 14:53| Comment(0) | 日記
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