2017年08月31日

「山に聞こえる軍靴の音」 (2015.10月Tableタブル掲載)

 戦争法案が強引に採決された。これからじわじわと軍靴の足音が聞こえてくるのではと不安に思う人は、国会前や各地のデモを見てもかなりの数になるだろう。戦後ずっと平和で、戦争から遠いところにあったこの国が、である。せめて山奥に住んでいれば世の中の動向に関係なくのんびり暮らせるんじゃないかと、これから田舎回帰が始まるかも…なんて少しでもプラス思考に考えたくもなるけれど、しかしながらそうでもない。

 四国の急峻な山々に囲まれた私の住む村は、どこからも遠いからこそ残された自給的暮らしの知恵が残されていて、ささやかながら豊かな人の営みがある。人よりもサルやシカの数の方が多いけれど、渋滞はもちろん信号もなく、道のまんなかに寝転んで満天の星空を眺めることもできる。昼間聞こえてくるのは鳥の声と川のせせらぎ、ばあちゃんが畑を打つ音だけ…なはずなのに、実はこの静かな空をもう何年も前から米軍の戦闘機が低空飛行する。

 山より低い高度で飛ぶのでその爆音たるや凄まじく、小さい子どもは大泣き、ばあちゃんたちは「腰が抜けるわ」と驚いて、それが多い日には数回にもなる。ここは米軍の飛行訓練ルート「オレンジルート」にあたっていて、我が家の真上も操縦席の顔がわかるほど低い高度で飛ぶのである。機体を縦にしたり旋回したり、山のすぐ手前で急上昇したりと、高速なだけに事故になればたいへんなことになる。1994年高度150m時速800キロで低空飛行していた米軍機が高知県山中の早明浦ダムに墜落した事故も、このオレンジルート上での訓練中だった。

 アメリカでは戦闘機は住宅地の上を飛んではならない法律があるそうだ。だから沖縄でもアメリカ人居住地の上は飛ばない。理由は簡単、落ちたら危険だからだ。「は?」と思ったけれど、ああ、私たちはサル並みなんだなと妙に腑に落ちた。こうして米軍機が日本全国どこでも飛んでいいことを、安保の名のもと日本人が危険な目にあうことを、容認してきたのは日本政府だ。そしてその戦闘機は世界に飛び、罪なき子どもたちの上に爆弾を落とすのだ。

 戦後日本は本当に平和だったのだろうか。戦争と無関係だったのだろうか。沖縄ではずっと今まで米軍基地と隣り合わせ。辺野古や高江ではもう何年も体を張って強大な力と闘っている人たちがいて、今や島ぐるみで対峙している相手はアメリカであり日本政府である。中央から離れた見えないところで、軍靴の足音は確実に響き続けてきたのではないだろうか。

 でもいま、多くの人たちが自分のこととして関心を持ち動き始めた。辺野古で何が起きているか、福島に住む人たちはどうかと、見えない人たちに気持ちを寄せて考えるようになった。せめて強行採決というあの愚行を心に刻み、これを踏み台として政治=暮らし・命を自分たちの手に取り戻すために私たちは声を挙げ続けたい。そして戦争や権力集中に繋がるものを見極めて、選挙で誰を選ぶかはもちろんのこと、何を食べるか、何を買うか、どういう暮らし方をするかという小さいひとつひとつの選択をより慎重にしていきたい。じっと耳を澄ませて、破滅に向かう行進に巻き込まれないように、どこの誰の命も奪うことがないように。今、人としての生き方が問われているように思う。


posted by pon at 12:13| Comment(0) | 日記
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